『3びきのくま』とディズニー
はじめまして。ウィリーと申します。
今回は友人のユーキャンさんにマインドコントロールされ、カンベアドベントに参加することになりました。助けてください。
カントリーベアシアターと「3びきのくま」
突然ですが、カントリーベアシアターの出口にはこのような張り紙があります。
WANTED!
"GOLDILOCKS"
指名手配書のようですが、描かれているのはゴルディロックスという少女のようです。下には罪状も書いてあります。
-CRIMES-
・BREAKING & ENTERING
・STEALING PORRIDGE
・DESTROYING CHAIRS & BEDS・OTHERWISE DISTURBING THE PEACE
~罪状~
・不法侵入
・おかゆの窃盗
・イスおよびベッドの器物損壊
・その他、平和を脅かす行為
この女の子は相当な悪事をしでかしたようですね。
実は、この張り紙は「3びきのくま」という童話に由来するものなのです。
3びきのくまのお話
「3びきのくま」はこのようなお話です。
あるところにゴルディロックスという女の子がいました。
ゴルディロックスが森を歩いていると、小屋を見つけました。誰もいないので入ってみると、テーブルの上にお粥が置いてありました。1つ目のお粥は熱く、2つ目のお粥は冷たく、3つ目のお粥はちょうどいい温度だったので、全部飲んでしまいました。
ゴルディロックスはイスに座ろうと思いました。1つ目のイスは大きすぎました。2つ目のイスはもっと大きすぎました。3つ目のイスはちょうどいい大きさだったので座りましたが、壊れてしまいました。
眠くなったので寝室に行くと、3つのベッドがありました。1つ目のベッドは固すぎました。2つ目のベッドは柔らかすぎました。3つ目のベッドはちょうどよかったので、そこで寝てしまいました。
そこにクマたちが戻って来て、お粥は食べられ、椅子は壊されていて、ベッドには女の子が寝ているのを発見しました。目を覚ました女の子はクマに驚き、慌てて家から逃げていきました。
というお話です。ただの未解決犯罪ですね。熊たちが指名手配書を書くのも無理ないです。
余談ですが、アニメーションの重鎮である高畑勲さんや宮崎駿さんは若いころ、「3びきのくま」のアニメーション化を検討していました。しかし、「絵本の面白さを超えられない」という理由で断念したという逸話が残っています。その後に作られた『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』では、冒頭のサーカス団が忍び込むシーンに「3びきのくま」の影響が色濃く表れています。
さて、実はこの「3びきのくま」は昔からディズニー作品にも登場するお話なのです。
アリスコメディと「3びきのくま」
アリスコメディとは、ウォルト・ディズニーが監督した無声アニメーションシリーズです。内容は、アリスという実写の少女がカートゥーンランド(アニメーションの国)で遊ぶというものでした。
アリスコメディの一編、「3びきのくま」の翻案として制作されたのが”Alice and the Three Bears”です。この作品にはゴルディロックスは登場せず、その役割をアリスが演じています。登場する熊たちは密造酒を作るといった典型的なヒルビリーのように描かれていて、クライマックスでアリスは丸鋸で殺されそうになります。なかなか議論を呼びそうな内容ですね。
カントリーベアシアターのメンバーも、ほとんどがヒルビリーのように描かれているので、もしかするとこの熊たちとは関係があるのかもしれません。カンベアの出口に指名手配書を張ったのも彼らかと思うと、想像が広がりますね(だったらアリスと書くだろうというツッコミは無視)
シリーシンフォニーと「3びきのくま」
音楽をテーマにしたアニメーションシリーズ、シリーシンフォニーにも「3びきのくま」が登場します。一本目は『おとぎ王国(原題:Old King Cole)』です。
この作品では、絵本からマザーグースやイソップ童話などの様々なキャラクターが飛び出し、コール大王のもとでパーティを楽しみます。3匹のくまとゴルディロックスが一緒にダンスをしているところを見ると、あの事件のあとにきちんと仲直りができたみたいですね。
2本目は『赤ずきんちゃん』です。この作品は皆さんもご存じの赤ずきんちゃんを翻案したものですが、セリフの中でゴルディロックスが出てきます。
シリーシンフォニーの『赤ずきんちゃん』は『3びきのこぶた』の続編としてつくられており、ビッグバッドウルフもこの作品に登場します。彼はこの作品でも変装をしますが、そのときの偽名がゴルディロックスなのです。シリーシンフォニーの世界ではゴルディロックスは名前が知られた存在なのかもしれんませんね。
さて、シリーシンフォニーでは『3びきのくま』がつくられなかったのかといえば、そうでもないのです。
かつてウォルトの下でアリスコメディーの制作にも関わっていたアニメーターのヒュー・ハーマンとルドルフ・アイジングが、ディズニーで『3びきのくま』の制作を下請けしていたことがあります。
ヒュー・ハーマンとルドルフ・アイジングといえば、ユニバーサルのチャールズ・ミンツがウォルトから「しあわせうさぎのオズワルド」を取り上げたときに、ミンツ側についたアニメーターです。この二人は引き抜きを受けたあと、ウォルトに激しい対抗意識を燃やし、ワーナーではルーニートゥーンズやメリーメロディーズといった作品を生み出しました。しかし、ワーナーとも揉めて契約を解消、ハーマン=アイジングとしてMGMに作品を提供したり、フリーランスでアニメーション制作を行っていました。
このとき、ディズニーは『白雪姫』を制作していましたが、作業の人員が足りず、ハーマンとアイジングからインク&ペイント部門のスタッフを借りることになりました。この見返りとして、ディズニーはシリーシンフォニー作品の制作を彼らに委託します。シリーシンフォニー作品でも評価の高い『人魚の踊り(原題:Merbabies)』もヒュー・ハーマンとルドルフ・アイジングたちによって作られたものなのです。
続けて『3びきのくま』も制作していましたが、ディズニーはこれをキャンセルしてしまいました。せっかく作っていた作品をボツにするわけにいかず、ヒュー・ハーマンとルドルフ・アイジングはこの作品をメトロゴールドウィンメイヤー(MGM)に持ち込んで"Goldilocks and Three Bears"として発表してしまいました。
ディズニー作品のはずがMGM作品になってしまった"Goldilocks and Three Bears"ですが、よく見てみると水中に落ちるシーンもあり、”Alice and the Three Bears”の要素が残されているようです。彼らがかつて携わったアリスコメディのリメイクという側面があったのかもしれません。そう考えてみると、作品を却下したディズニーへの怒りが伝わってくるようですね...。
最終的にカンベアとは関係なくなってしまいましたが、マインドコントロールが解けてきたのでここまでとします。
お読みいただきありがとうございました。またいつか来てください♪
【参考】
有馬哲夫、「ディズニーとライバルたち」(東京:フィルムアート社 2004)
ディディエ・ゲズ、ディズニー黄金期の幻のアート作品集: THEY DREW AS THEY PLEASED Vol.1(東京:ウォルトディズニージャパン 2016)
デイブ・スミス、Disney AtoZ : The Official Encyclopedia オフィシャル百科事典(東京 : ぴあ)
Micheal Barrier,Hollywood Cartoons American Animation in Its Golden Age